【福岡・飯塚市】福田 美幸(ふくだ・みゆき)助産師、福田母乳育児相談所
■プロフィル
1947年1月28日、庄内町生まれ。九州大学医学部付属助産婦学校を経て、助産婦に。母乳育児を訴える助産婦桶谷そとみさんに弟子入りし、免許皆伝。88年、庄内町綱分に桶谷式の福田母乳育児相談室「福田助産所」を開業。
■連絡先
福田母乳育児相談室、飯塚市大字綱分1424(旧庄内町): TEL 0948-82-0817
技・達人列伝=
温かく声かけ心もほぐす 福田美幸さん
●母乳育児指導の助産師 福田美幸(ふくだ・みゆき)さん
「んご、んごっ」。今まで泣いていた赤ん坊ののどが鳴った。「すごーい。吸いよる、吸いよるよー」。わが子に乳房を含ませた若い母親が喜びの声を上げると、福田助産所の六畳の待合室に居合わせた人たちも思わず笑顔で拍手した。
母親は乳頭陥没。乳首が表に出ていない乳房に興味を示さなかった赤ん坊が初めて「はむっ」と自分の胸に吸い付いてきたことに感動したのだ。
「乳房が張り、三九度を超える熱が出た」「乳腺が詰まってお乳が出ない」…。母乳育児がうまくいかない悩みを持つ母親が次々と相談に訪れる。
赤ん坊は、舌の上で乳首を転がし、あご全体を使って母乳を吸う。ところが、ほ乳瓶のゴムの乳首に慣れてしまうと、母乳を正しく飲めなくなる。そんな赤ん坊に、スプーンで乳を飲ませながら舌やあごの動きを覚えさせる。硬くなった母親の乳房は十本の指と手のひら全体でほぐし、乳房にたまった古い乳を押し出す。
食生活指導も重要だ。赤ん坊はおっぱいがまずいと乳首をかみ、泣いて抗議する。母乳のもとになる血液を良好な状態に保つため穀類菜食中心の食生活を勧める。
「母乳はね、直前まで血液だったとよ」「脂っこいもんを控えようか」などと母親たちに語りかけ、赤ん坊にほほえみかける。
一九六九年、助産師になって福岡市の病院に勤務していた当時は、陣痛促進剤を使った短時間のお産の全盛時代。「なんで自然の摂理に任せられないんだろう」。そんな疑問を抱いていたときに、富山県高岡市で助産師として独自の母乳育児法で成果を上げた桶谷(おけたに)そとみさん=大阪府在住=の存在を知った。助産師仲間と勉強会を重ね、桶谷さんの下で半年間研修し一九八八年に独立、自宅前に助産所を開設した。
「いいおっぱいが出るかどうかで、赤ちゃんの育ち方は違うんよ」。愛するわが子を胸に抱いた母親たちの乳房をタオルで温め、子育てのストレスで押しつぶされそうになっている胸と心をほぐし、励ます。助産所開設以来、世話をした赤ん坊の数は二千人を超えた。
(この欄は随時掲載します)
【写真説明1】「さあ、飲んで」。赤ん坊に乳首を含ませる福田美幸さん(左)
母乳育児の大切さを説く助産婦 福田美幸さん
いいおっぱいで子育てを 再評価したい日本型食生活/筑豊ワイド
●福田 美幸(ふくだ・みゆき)さん(庄内町綱分)
(診察室に入ると、母親の胸に抱かれた乳児の姿。乳首を口に含んだ乳児は、安心しきった表情で母親と目を合わせていた)
―なんとも神々しい光景ですね。
おっぱいを飲むことは、単なる赤ちゃんの栄養補給ではありません。おっぱいを通じて目、口、耳など五感を使い、新しい世界を認知する行為なんです。そこで問われるのが、おっぱいの質。おっぱいがおいしくないと、赤ちゃんはいやがって飲みませんし、乳首をかんで抗議したりします。それが夜泣きやぐずぐずの原因にもなるんですよ。
―そうなると、母親もいらいらしてきますね。
そう、おっぱい次第で、育児は楽しいものにも、つらいものにもなるんです。でも最近のお母さんのおっぱいには問題が多い。
原因は食事です。血液が乳房にある乳腺房で白く変化し、それが細い管を通って乳首から出たのがおっぱい。でも、今のお母さん方の食事は肉中心の西洋型が多いから、脂で管が詰まることが多いんです。そうなると、乳房の中に古いおっぱいがたまってしまい、乳質が劣化して、赤ちゃんが嫌がるまずいおっぱいになる。これが俗にいう「たまり乳の腐れ乳」です。マッサージで乳房の底の部分をもみほぐすと、乳首の先から白い脂肪の塊がにゅっと出てくる場合もあるほどです。
―そうならないためにはどうすればよいのですか。
穀物や豆、野菜、海藻など日本型食生活の実践です。それができれば、ほとんどの人が三時間おきに、泉のようにおっぱいがわきでてくるようになります。
人間の脳が驚くべき速さで成長する幼年期。なかでも最初の一年は特に重要で、おっぱいの質がその後の人間形成を左右するといっても過言ではありません。私たち助産婦が、育児休業制度や妊婦への支援制度の充実を訴えるのも、そのためなのです。
赤ちゃんが喜べば、お母さんはもちろん、周囲もうれしくなります。いいおっぱいを出して、楽しく子育てしてほしいですね。