「食卓の向こう側」 応援団ブログ

西日本新聞「食卓の向こう側」応援団。世の中の「くらし」を明るくします。

【宮崎・都城市】有馬 孝禮(ありま・たかのり)宮崎県木材利用技術センター所長

得意分野:

f:id:shoku-taku:20160224103158p:plain

■プロフィル
宮崎県木材利用技術センター所長・農学博士・東京大学名誉教授
有馬 孝禮 (ありま たかのり)1942生まれ、鹿児島県出身

【経歴】
昭和40年3月 東京大学農学部林産学科卒業
昭和42年3月 東京大学大学院農学系研究科林産学修士課程修了
昭和42年4月 東京大学農学部文部教官助手
昭和49年4月 建設省建築研究所建設技官研究員
(昭和51~52年オーストラリア連邦科学産業機構建築部門客員研究員)
昭和56年4月 静岡大学農学部林産学科助教
昭和62年4月 東京大学農学部林産学科助教
平成08年8月 東京大学大学院農学生命科学研究科教授
平成15年4月 宮崎県木材利用技術センター所長
(平成15年6月 東京大学名誉教授)

【委員等】
林野庁林政審議会会長、木の建築フォーラム代表理事、(財)日本建築センター木質系住宅構造審査委員会委員長、
(財)合板検査会理事、(社)日本森林技術理事、(社)日本木材保存協会理事
(社)日本木材加工技術協会顧問、日本木材壮青年団体連合会顧問など

【著書】
「木材の住科学」(単著・東京大学出版会
「木材の物理」「木材の工学」(共著・文永堂)
「循環型社会と木材」(単著・全日本建築士会)
{木質構造}(共著・海青社)
「木造の設計」(共著・新日本法規)
「木材は環境と健康を守る」(共著・産調出版)
「新建築学体系」(共著・彰国社)        など

【コメント】
地球温暖化防止問題や資源循環型社会の形成に向けて木材利用、とりわけスギなどの地域材の利用はきわめて重要な位置にあります。木材利用は単純な需要拡大に視点がある訳ではないことを理解してもらいたいとおもっています。
連絡先はhttp://www.pref.miyazaki.lg.jp/
contents/org/kankyo/mokuzai/wurc/

宮崎県木材利用技術センター
〒885-0037 宮崎県都城市花繰町21号2番
TEL:0986-46-6041
FAX:0986-46-6047

[農漁食]行動に変化与え 病気発生を抑制 宮崎県木材利用技術センター有馬孝礼所長に聞く 木の効用心身に顕著

●住居に使えば最適 「自然共生型」の生活に評価を
 海外の木材価格の高騰や、地球温暖化を招く二酸化炭素(CO2)の削減などから、日本の森林を見直す機運が高まっているが、国産材を積極的に使うべき理由はそれだけではない。体と心の側面から、暮らしに木を取り入れようと提唱する有馬孝礼・宮崎県木材利用技術センター所長に、木材の効用を聞いた。 (編集委員・佐藤 弘)

 ■生存率に大差
 静岡大学に勤務していた一九八七年、木(ヒノキ)、コンクリート、鉄板などの箱でマウスを飼って子どもを産ませ、その成長や行動を見る実験を行った。
 まず、何匹生まれて、二十日後に何匹生き残るかという生存率。マウスは一度に十五-十八匹の子を産むが、母親の乳首は十個で、生まれたときから兄弟の生存競争が始まるため、だいたい一割は死ぬ。
 初夏の外気温に近い二五-二六度での実験では木の箱は85%の生存率だったのに対し、金属は41%、コンクリートは7%というように、大きな差が生じた=グラフ。
 外気温が三〇度前後になると、生存率はほぼ同じだったが、体重の増加、内臓の発達ともに木の方が勝った。冷える環境の下では内臓の発達は非常に遅れる。特に顕著なのは、種の保存に関係する生殖器で精巣、卵巣、子宮で差がついた。
 ただ、注意してほしいのは、これはあくまでマウスの実験であることと、この結果をもって、「だから木がいい」と、単純にはいえないこと。
 例えば、母マウスは床に腹ばいになって乳をやる。その際、断熱性の高い木だと落ち着いて授乳ができるが、金属やコンクリートは体が冷えるから、授乳時間が短くなって、移動する。散らばった子マウスは体が冷え、皮膚に汗が結露したため、母マウスは子をかき集めることを嫌がった。つまり、「冷え」が母親の行動に影響を与えたわけだ。
 これは、周辺環境の温度が同じであっても、われわれが接する部分の熱伝導や吸湿効果が大きな影響力を持つということであり、「木を使うことによって行動が変わった」と考えるべきなのだ。

 ■マウスも人も
 コンクリートの床の上に敷く床材の比較実験も行った。一つの箱の床を二つに分割。木(杉、ヒノキ、合板など)、コンクリート塩化ビニールなどの床材を敷き、それをリーグ戦方式で組み合わせ、マウスがどちらに休むかを二時間おきに四十八時間チェックした。
 結果は、杉とコンクリートでは杉、合板とコンクリートでは合板、杉とヒノキは杉の勝ち。クッションフロアと塗装合板、杉と合板は引き分けで、この結果と、内臓の発達度合いは全く一致していた。
 また、飼育箱の素材による行動と、木造校舎から鉄筋コンクリート校舎に移動した教師の評価を比べると、「子どもが落ち着かない」「うるさい」「湿気が多くなる」などのような類似点が多々あった。
 マウスと違い、人間は環境に対し、知恵と技術で対応できるが、同じ生き物であることは間違いない。私たちが居住環境における材料の選択を考えるべき理由がここにある。

 ■病気にも強い
 木材の効用として、インフルエンザの発生と校舎の素材との関係を示す調査もある。
 日本住宅・木材技術センター(東京)が、築十年以内の木造校舎、鉄筋コンクリート(RC)校舎、内装木質校舎で、インフルエンザによって学級閉鎖した学級を調べた報告がある。
 すると、学級閉鎖率はRC校舎が22・8%だったのに対し、木造校舎は10・8%だった。
 面白いのは、RC校舎でも、床など内装の一部に木を使うと12・9%まで下がること。環境としては木造校舎がベストではあるが、すべてかゼロかの選択ではなく、こうした折衷案もある。
 特別養護老人ホームの入居者を対象にした、全国社会福祉協議会の調査でも、インフルエンザ罹患(りかん)者、ダニ被害、骨折、不眠の項目で、木材使用の多寡で比較したところ、木材利用の多い施設の状態が明らかに優れていた。

 ■新たな尺度で
 現代人が悩まされているアレルギーやアトピー、花粉症の急増もまた、私たちの居住空間の変化によるものが大きい。
 調湿性のない壁では結露しやすいたため、カビが生えやすい。窓を締め切った状態でエアコンを使うから、ほこりも舞う。
 一方、調湿性のある木材は、湿ったときは湿気を吸い、乾燥したときには木が湿気を放出するので必然的にほこりは立ちにくくなる。天気の良いときには窓を開け放つ木造住宅ではそのような調整がしやすい。
 建築において、居住者の健康にかかわる課題は大きい。わが国の場合、素材に関していえば、使用時や廃棄後に問題にあるアスベスト塩化ビニール製品、ホルマリンなどへの管理・規制が著しく低い。それは、供給する側の安直なクレーム対策や、居住者の一面的な機能性重視の産物でもあるのだが。
 現代の高気密、高断熱の住まいは、冷暖房などの負荷を減らす手段としては間違いではない。だが、その評価はエネルギー効率などといった比較的わかりやすいものに偏りがちで、暑いときは汗をかけばいいとか、寒いときは体を動かせばよいとかいった、自然共生型の生活は評価しにくい。新たな尺度が必要だ。
 いつか枯渇する化石燃料や鉱物資源とは違い、太陽エネルギーと植物の持つ生命力を使って再生産が図れる木材は、「切ったら植える」という基本原則さえ守れば、持続的に確保できる自然共生型の素材。
 地球温暖化防止問題や資源循環型社会の形成に向け、成長が早いスギなどの地域材の利用はきわめて重要な位置にある。決して、単純な需要拡大に視点があるわけではないことを理解してほしい。